東照宮と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、世界遺産にも登録されている日光の東照宮だろう。けれど、東照大権現たる徳川家康を祀る神社は、日光だけではない。全国各地に点在している。全国東照宮連合会の資料によれば、北は函館から南は長崎まで、実におよそ50もの神社が家康を神として祀っているのだという。
川越にある仙波東照宮も、そのひとつだ。検索すると、仙波東照宮が「日本三大東照宮」の一社であることが誇らしげに記されている記事がいくつもヒットする。それだけの由緒があるのだろうと、僕の興味は自然と引き寄せられる。けれど、どこかで少しだけ身構えてしまう気持ちもあった。というのも、「日本三大東照宮」という言葉には、どこか曖昧な響きがあるからだ。
本宮である日光東照宮、そして家康の御遺体が眠る久能山東照宮、この二社が名実ともにその名にふさわしいことは疑いようがない。だが、残る“ひとつ”の座を自らの神社に与えている例は、全国に幾社も存在している。いわば、三番目の椅子をめぐる、静かで誇り高い競争が繰り広げられているのだ。だからこそ、どこかで「日本三大東照宮」というフレーズに、僕は少し慎重になる。その言葉は、果たして本当にふさわしいのか。由緒の裏付けはあるのか。誇張ではないのか。観光誘致の一環ではないのか。そんな風に、つい訝しく思ってしまう。
仙波東照宮は、その名にふさわしい神社なのか――確かめるために、僕は仙波東照宮へと向かった。
この地に東照宮を建立したのは、上野・寛永寺を開山したことで知られる僧・天海だ。徳川家康が没したのち、静岡・久能山に一時葬られたが、その後、日光へと改葬される際、棺を運ぶ行列は川越のこの地で一時的に逗留した。その折、天海はここで丁重な法要を執り行い、やがてその場所に家康の像を祀ったことが、仙波東照宮の始まりだという。
やがて時を経て、三代将軍・徳川家光の命により、荘厳な社殿の造営が始まった。艶やかに彩られた本殿、重厚な唐門、瑞垣、拝殿、幣殿、随身門、そして堂々たる石鳥居――。いずれも幕府の威信を今でも静かに伝えている。仙波東照宮は、単なる一社ではない。将軍家の深い信仰と敬意を受け継いだ場所なのだ。本殿や唐門、瑞垣が国の重要文化財に指定されていることを考えても、その歴史と格式の深さは明らかだ。
「日本三大東照宮」を名乗るに、相応しい場所――きっと、そうなのだろう。しみじみと感じた。
ただひとつ、仙波東照宮を訪れるにあたって注意すべきことがある。それは、本殿や唐門といった見どころを、間近で見学できるのは日曜日や祝日、あるいは特別な日だけに限られている、ということだ。
「宗教施設に定休日なんてあるはずがない」
そんな先入観を抱いていた僕は、石段を半ば登ったところで、その考えを思い知らされることになる。門はぴたりと閉ざされていて、その奥に連なる拝殿や本殿の姿は、まるで夢の中にぼんやりと浮かぶ幻のようだった。境内はしんと静まりかえり、風の音さえも遠慮がちに響いていた。
僕が訪れたのは、土曜日。まさか、こんな形で門前払いを食らうとは。中に入れなくとも、せめて何か見えないかと、門扉の隙間から首を伸ばし、必死に目を凝らしてみた。けれど、視線の先に広がっていたのは、木々の影と、閉ざされた空間の一端だけだった。やはり訪れる際には、事前に拝観可能な日をきちんと確認しておくのが望ましい。万が一、閉まっていたら、隣接する喜多院に行くのがいいだろう。こちらは通常公開されていて、歴史的建造物や庭園を堪能できるから。
2022年5月 町角 埼玉 | |
門 川越 神社 階段 |
No
12263
撮影年月
2022年3月
投稿日
2022年05月12日
更新日
2025年03月28日
撮影場所
川越 / 埼玉
ジャンル
静物写真
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
ZEISS LOXIA 2/35