ヤンゴンから川を越えた先にある、タニンという街を歩いていた。ここにはミョーマと呼ばれる大きな市場がある。「ミョーマ」というのは特定の地名ではなく、ビルマ語で街の中心部を意味する言葉らしい。要するに、どこの街に行っても一番大きな中央市場は「ミョーマ市場」と名乗る傾向があるため、よそ者にとっては少しばかり紛らわしい。まずは生鮮食品を扱うエリアを冷やかしてみたが、店番をしている連中は見事なまでに暇を持て余している。魚や野菜を売る人間がこれほど退屈そうにしているのだから、日用品を扱う区画の人間はもっと暇に違いない。そんな無気力な空気が漂う通路をふらふらと歩いているうちに、やがて色鮮やかな布団を積み上げた店の前へと行き当たった。
その色鮮やかな布団を積み上げた店の店頭には、けばけばしい花柄の敷布団が何枚も無造作に重ねられていた。これまでに何度か、地元の人間が暮らす家の中を垣間見る機会があった。招いてくれた相手がそれほど裕福でなかったという事情もあるだろうが、どの家も驚くほど質素で、立派なベッドが置いてある部屋などひとつもなかった。僕が泊まるような外国人向けのホテルには当然のようにベッドが備え付けられているが、彼らにとってはベッドの上で寝るというのは決して当たり前の生活様式ではないようだ。日本の古い風習と同じように、床に直接布団を敷いて寝るスタイルが主流なのである。通気性の良い竹の床などに寝転がる方が、年中暑いこの国では理にかなっているのかもしれない。
その床に直接布団を敷いて寝るスタイルのためのド派手な商品を売っている若い女の子に、暇つぶしがてらカメラを向けてみた。すると彼女は、異邦人の持つ黒い機械にひどく狼狽したのか、両手でしっかりと顔を覆い隠してしまった。ピンク色のシャツを着た彼女は、指の隙間からこちらを覗き見ることもなく、頑なに顔を見せようとしない。写真を撮られると魂を抜かれるとでも思っているのだろうか。あるいは、単に僕の人相が悪くて不審に思われただけかもしれない。僕は彼女の恥じらう姿に心温まるような野暮な真似はせず、ただ顔を隠した構図をそのまま一枚だけ写真に収めた。
| 2019年5月 ミャンマー 人びと | |
| 恥ずかしがり屋 ピアス ピンク ポロシャツ ポニーテール 指輪 タニン 若い女性 |
No
11021
撮影年月
2018年9月
投稿日
2019年05月21日
更新日
2026年05月21日
撮影場所
タニン / ミャンマー
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA