大きな赤い鳥居が、ビルとビルの間に挟まれるようにして立っていた。上野の下谷神社の鳥居だという。どちらかといえば地味な神社だが、どうやら都内で最も歴史のある稲荷神社らしい。かつては広大な敷地を誇っていたそうだが、現在の境内は「可愛らしい」とすら形容できるほどに縮こまってしまっている。
現代建築に囲まれた細い表参道は、いまや公道となり、アスファルトできちんと舗装されている。その道を奥へと進むと、本殿がひっそりと姿を現す。ただ、この鳥居だけは浅草通りに面して堂々と立ち、通行人たちにさりげなく自己主張しているようだった。それでも、どこか遠慮がちだ。両腕を伸ばしながら、まるでビルにぶつからないよう気を使っているようにも見える。都会に溶け込むのか、それとも対抗するのか、自らの立ち位置を探しあぐねているかのようだった。
鳥居をしばらく眺めていると、ふと妙な感覚に襲われた。時間が静かに反転し、かつての広大な境内の姿が頭の中でぼんやりと浮かび上がるような気がした。人のざわめき、祭りの太鼓の音、きらめく提灯。だが、その感覚はすぐに霧のように消えた。現実に戻れば、目の前には鳥居とビル、そして浅草通りを行き交う無関心な車たちがいるだけだった。
2017年6月 町角 東京 | |
横断歩道 神社 鳥居 上野 |
No
10182
撮影年月
2016年11月
投稿日
2017年06月18日
更新日
2024年11月26日
撮影場所
東上野 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA