台北の北部、静かな山間に位置する故宮博物院を訪れると、まるで時を越えた旅に誘われるかのような錯覚に陥る。ここに展示されている収蔵品のほとんどは、辛亥革命以前、つまり1911年より前に中国の歴代王朝が宮中に集めていたものだ。たとえ“比較的新しい”とされる品でも、たいていは清朝の時代に遡る。つまり、館内の展示物はどれも少なくとも100年以上の時を経た、歴史の証人たちなのである。
博物院の奥を歩いていると、不意に現代的な空間に出くわした。大きな高精細の液晶スクリーンに伝統の水墨画が映し出されている。筆の掠れや墨の濃淡が、まるで実物の絹地に描かれているかのような錯覚を覚えるほどの再現度だ。台湾は世界でも有数の電子機器製造国であり、TSMCなどの企業がアップル社をはじめとする大手に半導体を供給している。そんな背景があるからこそ、最新の映像技術と古典芸術の融合という発想にも、説得力がある。
さらに面白いのは、このスクリーンが静止していないことだ。画面の位置に応じて、表示される水墨画の構図が自然に動き、見る角度によって変化する。まるで自分が山水画の中を歩いているような没入感だ。僕の前に立っていた男も、腕を組んだまま熱心にスクリーンを見つめていた。伝統を守るだけでなく、未来へ向けて芸術の形を模索するこの試みは、まさに台北という都市が持つ古さと新しさの象徴かもしれない。
2016年11月 静物 台湾 | |
作品 博物館・美術館 シルエット 台北 |
No
9949
撮影年月
2016年9月
投稿日
2016年11月25日
更新日
2025年06月28日
撮影場所
台北 / 台湾
ジャンル
スナップ写真
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA