台南の古びたアーケードが覆う水仙宮市場を、生臭い空気を吸い込みながら歩いていた。薄暗い通路の脇にある魚屋に目をやると、丸くて分厚いまな板の上に細長い生き物が横たわっている。パッと見は立派なウナギだが、正確にはタウナギと呼ばれる泥臭い代物だ。名前の響きからウナギの親戚のように思われがちだが、実際には分類学上で全く縁もゆかりもない遠い種族らしい。日本ではあまり食べる習慣がないものの、こちらでは至ってメジャーな食材である。
その至ってメジャーな食材であるタウナギは、台湾料理の中でもとりわけ台南の郷土料理として名高い「鱔魚意麺(タウナギの意麺)」に欠かせない。日本のウナギのように気取った高級食材ではなく、市場を歩けばこうして道端でぶつ切りにされている姿を頻繁に見かけるのだ。目の前のまな板に向かうオレンジ色のストライプのポロシャツを着た男は、なぜかひどく楽しそうな笑みを浮かべながら、手際よくヌルヌルとした身をさばいている。彼の手元をよく観察してみると、中華包丁とも少し違う、刃の腹が見事な半円状になった奇妙な形の包丁を握りしめていた。
その奇妙な形の半円状の包丁を目にして、台湾ではタウナギを処理する際にこの形を使うのが一般的な作法なのかと僕は推測した。しかし、市場の他の魚屋を見渡してみると、別の店でタウナギをさばいている人間はごく普通の包丁を使っている。その一方で、小骨がやたらと多いサバヒー(虱目魚)と呼ばれる厄介な魚をさばくのに、この半円状の包丁を使っている職人の姿も見かけた。結局のところ、魚の種類によって厳密に使い分けているのか、単なる個人の好みの問題なのかはさっぱり分からなかった。
| 2017年4月 人びと 台湾 | |
| 俎板 うなぎ 魚売り 眼鏡 包丁 ストライプのシャツ 台南 |
No
10118
撮影年月
2016年9月
投稿日
2017年04月24日
更新日
2026年05月25日
撮影場所
台南 / 台湾
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA