調布にある布多天神社を訪れた。延喜式神名帳にもその名が残る大変古い神社だ。ここは『ゲゲゲの鬼太郎』の主人公が社叢(神社の森)の裏手にひっそりと住んでいたという設定でも知られている。僕が訪れたときも境内は熱心な参拝客で随分と賑わっていた。しかし、きれいに掃き清められて四角四面に整備された境内に、妖怪が潜むようなおどろおどろしい雰囲気は微塵もない。鬼太郎のような職業不詳で素性の知れない人間を、現代の社会通念に則って積極的に排除しかねないほど、実につつがなく管理されている。世の中の曖昧なグレーゾーンとはまるっきり相容れないように僕には見えた。
その妖怪とは縁もゆかりもなさそうな洗練された布多天神社を後にして、調布駅へ向かってトボトボと歩き出した。すると、すぐに街道沿いの視界に、なんだか妙に気になる建造物が飛び込んできた。大正寺という真言宗の寺院の山門なのだが、実につむじ曲がりというか、個性的な形をしているのだ。下半分が白い漆喰で塗り固められたアーチ状になっており、その上に木造の瓦屋根が乗っかっている。世間ではこれを竜宮門と呼ぶらしい。おとぎ話の浦島太郎が訪れる竜宮城の門をそっくり真似たような、なんとも浮世離れした佇まいである。このような風変わりな形の門は、全国を探せば皆無ではないのだろうが、少なくとも東京の近郊では滅多にお目にかかれない代物だ。
その東京近郊では滅多にお目にかかれない竜宮門を前にすると、妙な異国情緒が胸のあたりにモヤモヤと湧き上がってくる。浦島太郎の水中都市を連想するのと同時に、なぜだか中国風の意匠も頭をよぎるのだ。それもそのはず、この竜宮造りという様式は、明の時代に中国から伝わった建築様式を色濃く反映している。もともとは禅宗の一派である黄檗宗の寺院で好まれたスタイルらしい。それが日本に定着するにつれて、その外観の格好良さから、宗派の垣根を越えて他所でも採用されるようになった。格好が良ければよその宗派の真似でも平気で取り入れるという、昔の日本人のこういういい加減なゆるさは実に好ましい。物見遊山で歩く僕のような人間にとって、四角四面な教義よりも、こういった見栄えの楽しさこそが何よりの御馳走なのである。
その見栄えの楽しさに満ちた門を見上げていると、頭上からはみ出した瑞々しい青もみじの葉が、初夏の光に透けてきれいに輝いていた。白いアーチの向こう側を、マスクをつけた二人の大人と、一人の小さな子どもが手を引かれるようにして仲良く横切っていった。
| 2022年8月 建築 東京 | |
| 調布 家族 門 寺院 |
No
12340
撮影年月
2022年5月
投稿日
2022年08月03日
更新日
2026年06月16日
撮影場所
調布 / 東京
ジャンル
建築写真
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
ZEISS LOXIA 2/35