何度も訪れている東京の湯島天神には男坂と女坂があって、男坂が急な階段である一方、女坂の方が傾斜が緩いことも知っていた。でも、最近まで参道に建つ鳥居の下にさりげなく唐獅子の装飾が施されているのを知らなかった。幾度となく、くぐり抜けたことのある鳥居なのだけれど、小さな唐獅子がいるのに気が付かなかったのだ。そして、その存在を知ってしまった今、鳥居をくぐるたびに小さな唐獅子が健在なのか気になっている。気に留めないようにしようと思えば思うほど、唐獅子の存在が気になってしまうという、パラドクシカルな状況に陥っているのだ。
世の中が広いと感心するのは、このような誰もが経験したことのあるような地味な現象を研究した研究者が存在していること。「何かを考えないように努力すればするほど、かえってそのことが頭から離れなくなる」という現象を研究した人がいるのだ。ダニエル・ウェグナーというアメリカの心理学者がその人だ。彼が提唱している皮肉過程理論によると、人間の思考過程は実行過程と監視過程に分けられ、「考えない」という命令の実行過程には「考えること」を監視過程においておく必要があるという。つまり、考えないという目的の達成には考える必要があるというパラドクスに陥るのだという。まさに僕が唐獅子を気になってしまう状況そのものだ。
2023年5月 静物 東京 | |
装飾 神社 鳥居 参拝客 湯島 |
No
12487
撮影年月
2023年2月
投稿日
2023年05月02日
更新日
2023年08月08日
撮影場所
湯島 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF