海洋系の食物連鎖の頂点に立つとされるシャチと似たような名前だから、てっきりお城や寺院の立派な屋根の上でいきり立っているのは海に生息しているシャチを模したものだと思っていた。なぜ陸上に生息しているトラやライオンにせず、海に生息する生き物にしたのかという疑問は残りつつも、権力者が建てた立派な建造物にはやはり強い生き物がお似合いなのだと勝手に納得していたのだ。
それがどうだろう。屋根の上にいるシャチと海にいるシャチはまったく別の生き物というではないか。シャチホコとも呼ばれる屋根の上にいるシャチは頭はトラに似ていて、背にはとげがある魚に似た想像上の海獣だ。それがどうして海から離れた屋根の上にいるのかといえば、防火の効があるとされたからだという。権勢を周囲に示すというよりも、火除のためのようだ。
同じ名前なのに片や想像上の生き物で、片や実在する生き物とはややこしい。まるで聖天子が現れる時にめでたいしるしとして出現するとされる想像上の生き物である麒麟と実際にアフリカに生息している首の長いキリンのようだ。同音で、どちらも生き物の名前なのに実態は全く別物だ。
湯島にある湯島聖堂の屋根を見ると、ここにもしっかりとシャチホコが鎮座していた。よく見ると、一般的なシャチホコが虎頭魚尾であるのに対し、湯島聖堂のシャチホコは龍頭魚尾だ。これもシャチホコの一種で鬼犾頭というらしい。面白いのは龍のはずなのに、クジラやシャチのように頭上から潮を吹いているところ。この大成殿を設計したのは、靖国神社の遊就館や築地本願寺を設計した伊東忠太だ。著名な建築家の中でも、海のシャチと想像上のシャチがごっちゃになっていたのではないかと思いを巡らせると、ちょっと伊東忠太という人間に親近感を感じた。
2022年8月 町角 東京 | |
屋根 寺院 参拝客 湯島 |
No
12352
撮影年月
2022年6月
投稿日
2022年08月19日
更新日
2023年08月11日
撮影場所
湯島 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
ZEISS BATIS 1.8/85