東京の学問の神様として名高い湯島天神を、これといった用もないのにふらりと訪れた。神社の正面に建っている表鳥居は、どういうわけか立派な銅製である。国内の神社をうろついていれば、木製や石製の鳥居など嫌というほど目にする。しかし、このように銅で作られたものは意外と少数派らしい。重鈍な光を放つその銅製の鳥居は、木や石にはない独特の威厳を周囲に撒き散らしている。由緒ある歴史を持つ神社の表玄関を飾るには、いかにも相応しい仰々しさである。
そのいかにも相応しい仰々しさを漂わせる鳥居を、暇に任せて上の方からじっくりと眺めてみた。反りのある笠木のついた島木と貫の間に、天満宮と書かれた立派な神額が掲げられている。それを支える二本の柱は、内側に向かって少しだけ傾いていた。ぱっと見たところ、いわゆる明神鳥居と呼ばれる一般的な様式に見える。だが、正確に言うと島木と柱の接合部に「台輪」と呼ばれる円座が付いているため、台輪鳥居という少し厄介な様式に分類されるのだという。
その少し厄介な様式を持つ台輪鳥居だが、貫から下へ伸びる柱の部分はひどくシンプルである。しかしながら、地面の台石に近づくにつれて、少しばかり様子が変わってくる。藁座と呼ばれる柱の根元の部分に、細かい文様が施されているのだ。さらに目を凝らしてよく見ると、そこに小さな動物がへばりついている。どうやら小さな狛犬のようだ。これまでこの湯島の天神様には何度となく足を運んでいるが、こんな足元に狛犬が潜んでいることなどちっとも知らなかった。よくよく考えてみれば、鳥居そのものを下から上までじっくりと眺めたのは今回が初めてかもしれない。
その足元に潜んでいる小さな狛犬の存在に、気づいている人間はほとんどいないだろう。境内には大勢の参拝客がひしめいているが、誰も彼もが神頼みに夢中で、自分の足元などちっとも見ていないからだ。大きく目を見開いたこの小さな門番は、誰にも気付かれることなく、鳥居をくぐる人間たちのふつつかさを下からこっそりと品定めしているらしい。
| 2021年5月 静物 東京 | |
| 狛犬 神社 鳥居 湯島 |
No
11916
撮影年月
2020年9月
投稿日
2021年05月24日
更新日
2026年05月07日
撮影場所
湯島 / 東京
ジャンル
静物写真
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF