夕食にはまだ早い時間だったが、台北の迪化街に建ち並ぶ食堂はすでに多くの客で賑わっていた。店先に並べられたテーブルの上には、メニューがびっしりと書かれた紙が壁に貼られている。中国語の文字がずらりと並び、麺料理や魚料理の名前が目に入る。その中には、あの独特の香りで有名な臭豆腐の名前も見えた。そして、よく見ると、一文だけ日本語で書かれた文字が混ざっていた。
台湾は日本人にとって人気の渡航先だ。本屋に行けば台湾関連の書籍が平積みされているし、この食堂にもきっと多くの日本人観光客が訪れるのだろう。そんなことを思いながら、賑やかな店先を眺めていた。
ふと目を向けると、あるテーブルに若い男が座っているのが見えた。テーブルの上には空のお椀が置かれている。どうやら彼はすでに食事を終えたらしい。その隣には彼女と思しき女性が座っていた。彼女は何かを話しかけているが、男は彼女には目を向けず、どこか遠くをぼんやりと眺めている。その表情は無表情だったが、どことなく耳にしたくない話題を避けているような雰囲気が漂っていた。
店全体の喧騒の中で、彼と彼女の間だけが妙に切り離された空間のように見えた。その微妙な空気に、僕は何かを考えようとしたが、それ以上考えることはやめた。ただ、そこにある風景の一部として受け入れることにした。
2017年6月 人びと 台湾 | |
椅子 漢字 レストラン テーブル 台北 青年 |
No
10163
撮影年月
2016年9月
投稿日
2017年06月02日
更新日
2024年11月30日
撮影場所
台北 / 台湾
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA