水仙宮市場を伸びる通路の両脇に並ぶお店のシャッターはすべて閉ざされていた。屋根で覆われた通路には電灯もなく、薄暗さが支配していた。市場の中でありながら、そこには静寂が漂い、台南でも有数の規模を誇る市場だという事実が、どこか信じ難く感じられた。
そんな薄暗い通路の中を、僕はひとりで歩いていた。人の気配がまったくなく、誰もいない通路を進む感覚は、まるで廃墟の中を彷徨っているようだった。時間の止まった空間のようで、歩くたびに自分の足音だけが響いてくる。
やがて、通路の先に小さな日溜りが見えてきた。その部分だけ、どうやら屋根がないようだ。太陽の光が差し込む場所があることで、そこが妙に現実味を帯びて感じられる。そして、その日溜りから一人の男が現れた。
男は箒を手にしていた。シャッターが閉まったお店のひとつから出てきた彼は、これから店先の掃除でも始めるつもりなのだろう。その所作には特に急ぐ様子もなく、静かな通路と溶け合っていた。
2017年3月 町角 台湾 | |
箒 薄暗さ 通路 日溜り 台南 |
No
10062
撮影年月
2016年9月
投稿日
2017年03月06日
更新日
2025年01月23日
撮影場所
台南 / 台湾
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
EF85MM F1.2L II USM