京都・宇治に立つ平等院鳳凰堂は、1053年の建立。国宝であり、世界遺産にも登録されている歴史的建造物だ。写真は2012年から2014年にかけての修理工事よりも前のもので、彩色の鮮やかさよりも、長い時間を経て育まれた木肌の渋みが際立っている。磨き上げられた新築のような美しさも良いが、このやや色褪せた姿には、使い込まれた道具のような落ち着きがある。
この堂が有名なのは観光ガイドだけの話ではない。日本に暮らしていれば、訪れたことがなくてもその姿をどこかで見ているはずだ。なにしろ十円硬貨の裏面には、鳳凰堂の正面が刻まれている。さらに一万円札の裏には、その屋根の上に鎮座する鳳凰がデザインされている。財布の中で、日々この国宝と顔を合わせているのだ。もっとも、小銭を投げ込む自販機や紙幣を呑み込む券売機が、この文化財を丁寧に扱ってくれているかどうかは怪しいが。
平等院鳳凰堂の屋根飾りである鳳凰は、中国から伝わった瑞鳥の意匠で、平安時代には権力や平和の象徴とされた。建物全体の左右対称の優美な構造は、極楽浄土を地上に再現するための設計といわれるが、現世で見ると「よくここまでやったな」と感心する一方、工期と予算を心配したくもなる。
実際に目の前に立つと、その荘厳さは確かに圧倒的だが、僕の頭には同時に財布の中の十円玉が浮かんでしまう。美術史的価値と日常の小銭が、こうも直接つながっている建物は、日本でもそう多くないだろう。
2006年11月 建築 京都 | |
お堂・ホール 寺院 宇治 世界遺産 |
No
612
撮影年月
2006年9月
投稿日
2006年11月21日
更新日
2025年08月13日
撮影場所
宇治 / 京都
ジャンル
建築写真
カメラ
CANON EOS 1V