丸の内には第一生命館や明治生命館など第二次世界大戦前に建てられた面影を残すビルがあり、再建された三菱一号館のようなものもある。それと比べると、JR山手線の反対側である銀座には歴史を感じさせるビルは少ない。新しいモダンなビルが新築されるばかりで、古いビルは破壊される運命を受け入れるしかないように思えるくらい銀座は新陳代謝の激しい街なのかも知れない。
そのような中、この写真を撮った奥野ビルは第二次世界大戦前から銀座に立ち続けている数少ないベテランだ。1932年に建てられた当初は銀座アパートメントという名称で、最先端の設備を誇った高級アパートだったという。民間の住居としては日本で初めて設置されたエレベーターは今でも現役で、手動開閉式の扉は老貴婦人のような装いだ。
中を歩いているとすぐに気がつくのは、同じビルの中なのに窓のようなものがあること。窓のこちら側に廊下と階段があるのに、窓の向こうにも廊下と階段があるという不思議な構造になっているのだ。どうやら1932年に建設されたときは今の左半分しかなかったのを、1934年になって隣地に新館を建てて内廊下でつなげたためにそのようになっているらしい。つまり、当初は建物の内と外を隔てるという重要な役割を担っていたこの窓がその役目を終えてからすでに90年の年月が過ぎている。僕だったら虚無的な気分になってしまいそうに長い時間だ。
2024年5月 建築 東京 | |
人影 銀座 窓 |
No
12586
撮影年月
2023年9月
投稿日
2024年05月04日
更新日
2024年05月14日
撮影場所
銀座 / 東京
ジャンル
建築写真
カメラ
SONY ALPHA 7R V
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF