愛宕山の山頂にある愛宕神社で女性がお参りしていた

港区にある愛宕神社にお参りするには、急峻な出世の階段を上るにせよ、ちょっと緩やかな女坂を上るにせよ、小高い丘の上にある社殿まで赴かなければならない。これを階段を上る参道と考えるとちょっときつい行程だけれど、短い登山道ととらえると俄然ゆるい行程に思えてくる。愛宕神社のある愛宕山は自然形成によって成立した東京23区内の最高峰だから、社殿までの道筋を登山道と捉えてもあながち間違いではないはずだ。

今では周囲に高い建造物があるため実感できないものの、愛宕山は頂上からの景観が素晴らしいことで有名な場所だった。幕末にフェリーチェ・ベアトという写真家が愛宕山から撮影した江戸のパノラマ写真には浜離宮恩賜庭園はおろか、江戸湾も築地本願寺も写っているし、明治時代に作詞された鉄道唱歌にも「愛宕の山」として登場する（つまり鉄道の走っている新橋あたりから愛宕山が見えたのだ）。

高層ビルのない時代、東京23区内の最高峰から電波を飛ばせば、遠くまで飛ばせるはず。そう考えた社団法人東京放送局（NHKの前身のひとつ）が、愛宕山の頂上から電波を発信していたのも納得だ。もっとも高層ビルが立ち並ぶ現在では、標高25.7mからでは都心にさえ電波を届けるのに心もとない。そのため、すでに愛宕山に送信所はなく、電波を遠くまで送る役目は634メートルの高さを誇るスカイツリーに移管されている。NHK放送博物館が愛宕山の頂上に残っているのは、ここが都内で眺望のいい高い場所だったことの名残なのだ。

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