子どもの頃、僕の住んでいた町では、毎日のように豆腐屋が売り歩いていた。最後の一音が独特のラッパの音色を響かせながら、自転車の荷台に桶を乗せて、町を巡回する。野菜は八百屋で、お肉は肉屋で買うのが当たり前だったのに、豆腐だけはわざわざ買いに行く必要がなかったのは、なぜだったのだろうか。
今ではスーパーマーケットに行けば、水の入ったプラスチック容器に浮かぶ豆腐が簡単に手に入る。でも、このような包装技術が発達する前は、豆腐の輸送には相当な工夫が必要だったのかもしれない。水気を多く含み、柔らかい豆腐を形を崩さずに運ぶためには、個別包装が難しく、豆腐屋が直接客のもとに届けるのが最も合理的な方法だったのだろう。
ムンバイの街角で、行商人とすれ違ったとき、その記憶がふと蘇った。男は大きな容器を頭の上に載せ、片手にはラッパを持っていた。遠くからでも聞こえるラッパの音が、彼の到来を知らせる。何を売っているのかはわからない。でも、その姿は、かつての日本の豆腐屋とどこか重なるものがあった。
2025年3月 インド 人びと | |
髭 チェック柄のシャツ 行商人 ムンバイ |
No
12847
撮影年月
2024年5月
投稿日
2025年03月23日
撮影場所
ムンバイ / インド
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
SONY ALPHA 7R V
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF