ムンバイのアラビア海に浮かぶハッジ・アリー廟は、その名が示す通り、イスラム教の聖人を祀る霊廟だ。白亜の建物が海に浮かぶように佇み、長い参道を通ってようやく辿り着くことができる。その姿はまるで、現世と神聖な世界を隔てる門のように見えた。
敷地の中央にある聖人ハッジ・アリーの棺の前には、多くの巡礼者がひしめき合っていた。インドにおいても、この霊廟は聖地のひとつとされ、日々多くの人が訪れる。祈りを捧げる者、願掛けをする者、ただ静かにその場に佇む者——それぞれの心の中にある信仰の形がここに集まっているのだった。
これほど多くの人々が訪れるのだから、現世利益を願う者も少なくないのだろう。日本の神社で人々が絵馬を奉納し、手を合わせるのと同じように、ここでも祈りは日常の延長にあるのだ。祈る対象が違っても、人々が願うことはどこか似ているのかもしれない。
だが、日本の神社と決定的に異なるのは、聖人を祀る棺と唯一神アッラーを礼拝するモスクが明確に分けられている点だ。神への礼拝と、聖人への敬意は別のものとして扱われる。これはイスラム教の教義が根底にあるからこそだろう。
霊廟のすぐ横にはモスクがあり、その傍らには小さな洗い場が設けられていた。礼拝の前に手足を清める信者たちの姿があった。水が流れ、清らかな雰囲気が漂うこの空間は、祈りの前の静寂を守る場所のようにも思えた。
ムンバイという大都市の喧騒を背に、海に突き出したこの聖地では、日常とは異なる時間が流れていた。そこには、信仰の持つ強さと、それを支える人々の静かな祈りがあった。
2025年3月 インド 人びと | |
チェック柄のシャツ 白髪 モスク ムンバイ 裸足 水場 |
No
12832
撮影年月
2024年5月
投稿日
2025年03月10日
撮影場所
ムンバイ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R V
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF