境内に足を踏み入れた僕は、地元の人にならって、ミャンマーでもっとも高いとされるシュエモードー・パゴダの仏塔の周囲をぐるりと一周した。時計回りが作法らしいが、途中で方向を間違えなかったかどうかは定かではない。それでも、これで幾ばくかの徳を積めたに違いなく、人生も少しは上向くはずだと、都合のよい計算をして満足した僕は、何食わぬ顔で境内を後にし、出口へ向かって階段を下りていった。
すると門の周囲に人だかりができていた。参拝客ではない。花を手にした花売りたちである。ミャンマーでは寺院で花を供えることがごく一般的で、参拝と花はほとんどセット商品のような関係にあるらしい。厳しい自然の中でも黙って咲く花の姿が、修行に耐え忍ぶ仏教の思想と重なる、という説明をどこかで読んだ気もする。真偽のほどはともかく、寺院の周囲で花売りを見かけないことは、まずない。
ここバゴーでも事情は同じで、花売りたちは入り口付近に陣取り、参拝客が来るのを待ち構えていた。写真の女性もその一人で、両手に長い花を携え、こちらをじっと見ている。顔にはタナカが塗られ、装飾というよりは日常の身だしなみの一部といった趣だ。タナカは日焼け止めや肌の保護になるとも言われているが、実際のところは化粧と実用品の中間に位置する、なかなか便利な存在らしい。
カメラを向けると、女性は売り込みもせず、かといって無関心でもなく、静かにこちらの様子を観察していた。徳を積んだはずの僕は花を買うべきか一瞬迷ったが、結局そのまま通り過ぎた。悟りへの道は遠く、花一束で近づけるほど安上がりではない、ということにしておくのが無難だろう。
| 2019年8月 ミャンマー 人びと | |
| バゴー 花 行商人 タナカ 女性 |
No
11126
撮影年月
2018年9月
投稿日
2019年08月03日
更新日
2025年12月23日
撮影場所
バゴー / ミャンマー
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA