京都市の中心部、二条城のすぐ南に神泉苑という小さな寺院がある。小さいといっても、創建当時はそんな形容が似つかわしくなかった。延暦十三年(794年)、平安京の造営とともに誕生したこの場所は、当初「禁苑」と呼ばれる天皇専用の庭園だったという。宮中に隣接し、四季折々の花や鳥を愛でるための特別な庭だった。現在では押小路通と御池通に挟まれたわずかな敷地だが、往時を思えば、まるで盆栽の中の旧大内裏である。
この神泉苑に祀られているのは、雨を司る善女龍王だ。由来を辿ると、淳和天皇の時代、空海がここで祈雨の法を行ったと伝えられている。旱魃に悩む都に雨を呼び寄せた功績で、以来この地は「雨乞いの聖地」として知られるようになった。つまり、当時の京都では天気予報よりも弘法大師の方が頼りになったわけだ。
境内には池があり、今はアヒルがのんびりと羽を休めている。写真に写っているのもその一羽だ。善女龍王の眷属ではなく、たぶん単なる居候だろうが、神泉苑の穏やかな空気にすっかり溶け込んでいる。現代の参拝者はもはや雨乞いには来ない。スマートフォンの天気アプリで十分なのだ。それでも、人びとは今日もお参りに訪れる。天気よりも切実な願いごとが増えたということか。
| 2021年4月 動物 京都 | |
| アヒル 京都市 寺院 |
No
11877
撮影年月
2020年2月
投稿日
2021年04月15日
更新日
2025年11月27日
撮影場所
神泉苑 / 京都
ジャンル
動物写真
カメラ
RICOH GR III