10年に一度という大開帳が奉修されると小耳に挟んだので、はるばる川崎まで足を運んだ。厄除けで名高い川崎大師である。普段は厨子の奥に隠されて絶対秘仏となっているご本尊が、10年に一度、たった1ヶ月間だけ特別に公開されるらしい。そういう限定ものに弱いのは人間の浅ましい性である。信仰心などこれっぽっちもないただの野次馬根性でやって来たものの、境内はいつになくごった返していた。世間の人びとがこれほどまでにご開帳というものに関心を寄せているとは、思いもよらなかったのである。
その思いもよらないほど関心を寄せる連中のお目当ては、どうやら二つあるらしい。一つは、大本堂前の供養塔に結ばれた「お手綱」だ。ご本尊の右手から伸びた五色の糸が、白い晒の布となって外の柱まで繋がっているという。これに触れれば仏様と直接ご縁が結べるという算段で、皆がありがたそうに撫でさすっている。もう一つは、この期間中だけ配られる「赤札」という特別な護符である。弘法大師の直筆を写したという赤いお札をもらうために、境内には目眩がするほどの長蛇の列ができていた。屋台の匂いも相まって、すっかりお祭り騒ぎである。
そのすっかりお祭り騒ぎの境内において、赤札に群がる行列とは少し毛色の違う催しに出くわした。境内の一角に特設の弓道場が設けられ、奉納の弓道大会が開かれているのだ。的へ向かって、白筒袖の道着に黒い袴を身につけた大勢の人たちが一列に並んでいる。一斉に弓を引き絞る姿は、なんとも勇ましい。弓道には「射法八節」という厄介な八つの基本動作があるそうだが、素人の僕には細かい作法などさっぱり分からない。ただ、ドンチャン騒ぎの境内の中にあって、ここだけは歓声が上がるわけでもなく、弦の鳴る音だけを響かせて大会は粛々と進んでいた。
その粛々と進む大会の様子を、僕は邪魔にならない場所からぼんやりと眺めていた。皆が真剣な顔で的を見据え、次々と矢を放っていく。その整然とした所作を見ているだけで、なんだかひどく立派なものを拝ませてもらったような気になってくる。そうして弓を引く人たちの姿を眺めてすっかり満足してしまった僕は、結局、どこの誰が触ったか分からない供養塔の手綱に触れることもなく、何時間も並んで赤札をもらうこともなく、そのまま手ぶらでさっさと家路に就いたのである。
| 2024年10月 神奈川 人びと | |
| 弓矢 儀式 川崎 寺院 |
No
12675
撮影年月
2024年5月
投稿日
2024年10月14日
更新日
2026年05月11日
撮影場所
川崎 / 神奈川
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R V
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF