物陰からキューピッドがこっそり女の人を狙っていた

密かに狙いを定めるキューピッド
物陰から狙うキューピッド

銀座の通りを、人混みを避けるように歩いていた。煌びやかなショーウィンドウには目もくれず、路地裏の物陰にふと視線をやると、背中に羽を生やした幼い子がひっそりと身を潜めていた。もちろん本物の人間ではなく、ブロンズで作られた小さな彫像である。その幼い子は、先端にベタなハートの装飾が付いた矢と小ぶりな弓を構え、通りを行き交う獲物を熱心に物色している最中であった。神聖な天使かと思いきや、愛の矢を放つという物騒な飛び道具を持っている以上、この子は間違いなくキューピッドである。

著者 :
文藝春秋
発売日 : 2024-04-09

その物騒な飛び道具を持つキューピッドの視線の先には、買い物を終えたばかりらしき一人の女性が歩いていた。手にはブランド物か何かの白い紙袋を提げている。キューピッドはどうやら、その女性にきっちりと狙いを定めているようだ。ちなみに、ローマ神話のキューピッドは、ギリシャ神話に遡ればエロスという名になる。つまりは愛を司る神様というわけだが、当の標的である女性は、自分が路地裏から愛の狙撃手に見つめられていることなど微塵も気がついていない。平和な昼下がりの銀座で、彼女はただ無防備にヒールの音を響かせて通り過ぎていく。

その無防備に通り過ぎていく女性に対して、なぜキューピッドが執拗に狙いを定めているのか僕にはさっぱり分からない。ただ、この愛の神様は構えた弓を下ろすこともなく、いつまで経っても矢を放つ気配がないのだ。神話によれば、彼の放つ矢には「愛情を催す黄金の矢」と「嫌悪を催す鉛の矢」の二種類があるという、はた迷惑な設定がある。もしかすると彼は、どちらの矢を撃ち込むべきか真剣に迷っているのだろうか。あるいは、ただ標的をじっと見つめているくせに、最後の最後で引き金を引く決心がつかない、単なるいくじなしの神様なのかもしれない。

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ENGLISH
2011年11月 町角 東京
天使 弓矢 銀座 道端

PHOTO DATA

No

5929

撮影年月

2011年7月

投稿日

2011年11月25日

更新日

2026年05月01日

撮影場所

銀座 / 東京

ジャンル

ストリート・フォトグラフィー

カメラ

OLYMPUS PEN E-P2

レンズ

M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42MM

日本国内で撮影した写真

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