東京の九段にある靖国神社は、常に議論の対象となる場所だ。戦没者や軍属を祀る神社として、国内外で賛否が入り乱れるが、参道を歩いていると、そうした喧騒とは別の時間が流れているように思える。僕の足元を抜けていく風は湿り気を帯び、梅雨が近づいていることを知らせていた。境内の敷石はきれいに掃き清められており、掃除をする人々の几帳面さが目に入る。
ふと見上げた鳥居の上を、一羽の鳥が横切った。カラスかと思ったが、どうやら鳩のようである。どちらにせよ、彼らにとって鳥居は参拝の門ではなく、ただの飛行ルートの一部にすぎない。人間が有難がって見上げる構造物も、鳥にしてみれば「邪魔な電柱」と大差ないのだろう。靖国神社の鳥居は銅製で、東京大空襲の被害を奇跡的に免れたという。鳥たちはそんな歴史など知る由もなく、勝手気ままに羽ばたいている。
神社を訪れる参拝者は、各々の思惑を胸に秘めて歩いている。観光客もいれば、純粋に祈りに来る人もいる。僕などは散歩の延長で立ち寄っただけだが、鳥居を見上げていると、彼らと同じように何かを考えているふりができる。空を背景にした鳥居は、写真に撮ればそれなりに荘厳に見えるが、実際には雷雨にでも遭えばすぐにびしょ濡れになる場所である。そう思うと、神聖さよりも生活感の方が先に立つのが、僕にとっての靖国神社らしい姿だった。
2011年8月 建築 東京 | |
鳥 雲 九段 空 鳥居 |
No
5665
撮影年月
2011年5月
投稿日
2011年08月28日
更新日
2025年08月25日
撮影場所
九段 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
OLYMPUS PEN E-P2
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42MM