東京にある靖国神社は、もともと東京招魂社と称していた。招魂とは死者をとむらうこと。その名の通り、明治維新以後の日本国家のために殉難した人を祀るために建立された神社だ。祀られている人物を巡って論争が起きるけれど、そもそも誰を祀るのかを決めるのは宗教側なのだから仕方ない。キリスト教だって、宗派によって聖人の扱いは違う。例えば日本正教会で聖人とされる聖ニコライも、カトリックでは聖人とされていないし、同じ正教会の中でもアルメニア使徒教会、コプト正教会、シリア正教会などの非カルケドン派正教会でも聖人とされていない。世の中にはアブラハム、モーセ、イエス、ムハンマドを闇の世界から送られた偽の預言者とみなすマンダ教という宗教もあるくらいで、誰もが一様に納得する基準を設けるのは難しいのだ。
個人的に興味深かったのは、韓国の慶州で泊まったホテルの主人と話したときのこと。戦前の日本語教育を受けて日本語を流暢に操る男性の背後に、靖国神社でピースサインする写真が掲げられていたのだ。なんでも主人のお兄さんは第2次世界大戦中に日本兵として出征し、南方で命を落としたため靖国神社に祀られているのだという。遺族の中には「靖国神社への合祀は自らの意思に反し、人格権の侵害である」と主張する人もいると聞いていたので、「教育勅語を諳んじられる私は、あなた以上に日本人である」と話す主人を意外に感じた。戦死したお兄さんが靖国神社に祀られているのをどちらかといえば誇りに感じているようだったので、合祀の捉え方は人によって異なるのだとつくづく思ったのだ。
2024年3月 町角 東京 | |
九段 神社 鳥居 |
No
12573
撮影年月
2023年7月
投稿日
2024年03月20日
更新日
2024年03月26日
撮影場所
九段 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
IPHONE 14 PRO