平日でも靖国神社には多くの参拝者が訪れる。東京の九段という立地を考えれば、仕事帰りの会社員や観光客が混じっているのも当然だろう。参道を歩く人々の中にはキャリーバッグを引いている者もいて、地方や海外からの旅行者であることが透けて見える。スーツ姿で鞄を転がす姿は、どうにも観光というより出張の途中に参拝を思い立ったようにも見えるが、本人しか知り得ぬ事情である。
門の向こうに拝殿があり、その手前には堂々たる鳥居が立っている。靖国神社の鳥居は単なる参道の通過点ではなく、境界を示す記号のようなものだ。鳥居をくぐることによって俗世と聖域が区切られる、という理屈らしい。もっとも、くぐったからといって急に心が清らかになるわけでもないのが人間の常である。
九段の靖国神社は、明治期に創建されて以来、日本の近代史の節目ごとに議論の舞台となってきた。軍属や戦没者を祀るという性格上、国内外で賛否両論を呼ぶ存在でもある。しかし、旅行者にとっては歴史と宗教と政治が渾然一体となったこの空間そのものが、東京の中でも特異な場所であることに変わりはない。参道を進み、鳥居の下に立つと、旅人のスーツケースの車輪の音と、神域に流れる静寂とが奇妙に交錯していた。
2011年8月 町角 東京 | |
バック・ショット 門 九段 四人組 神社 鳥居 |
No
5663
撮影年月
2011年5月
投稿日
2011年08月27日
更新日
2025年08月25日
撮影場所
九段 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
OLYMPUS PEN E-P2
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42MM