アウランガバードの街を歩いていると、観光名所として知られるビービー・カ・マクバラーに辿り着く。タージ・マハルを縮小したような姿をしているせいか「貧乏人のタージ」と陰口を叩かれることもあるが、インドの地方都市にしてはなかなか壮麗な建物である。そんな廟を前に、ふと視線を転じると、煌びやかなアクセサリーを身にまとった少女たちがいた。耳には大ぶりのイヤリング、首にはギラギラと輝くネックレス、腕には銀色のバングルを何重にも重ねている。さらに鼻には小さなピアスまで光っている。これだけ飾り立てているのだから、裕福な家の娘かと思いきや、抱えているペットボトルは使い古しの安物で、どこかアンバランスなのが妙に印象に残る。インドらしい、と言ってしまえばそれまでだが、豪奢と日常の混在はこの国の風景そのものかもしれない。
ちなみに、このビービー・カ・マクバラーはムガル帝国第六代皇帝アウラングゼーブの妃、ディルラス・バーヌー・ベーガムの墓廟で、直訳すれば「婦人の墓」という味気ない名になる。タージ・マハルと比べられてしまうのは気の毒だが、考えてみれば、観光客にあれこれ評価されるために建てられたわけではない。むしろ、ここで煌びやかなアクセサリーを身につけた少女たちが笑い合っている光景のほうが、廟にとってはずっと幸福な役割なのではないかと思えてくる。もっとも、僕のような物好きな旅行者からすれば、少女たちの眼差しに写真を撮られることへの半ば期待と半ば照れが入り混じっているのが何よりも面白い。インドの観光地には、石の建造物と同じくらいに、人間模様が層を成して積み重なっているのだ。
2011年8月 インド 人びと | |
アウランガバード イヤリング 女の子 ネックレス ペットボトル 横顔 三人組 |
No
5666
撮影年月
2010年9月
投稿日
2011年08月28日
更新日
2025年08月25日
撮影場所
アウランガバード / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM