近郊列車がインド・ムンバイの駅に滑り込んでくると、車内からどっと人の流れがあふれ出した。朝の魚市場に群がる群衆のように、駅のプラットホームは瞬く間に色とりどりのサリーに染まる。ヒンドゥー教徒の女性たちは伝統的な装いを纏い、暑さに負けじと歩を進めている。その中に一人だけ、黒いヒジャブを纏ったイスラム教徒の女性がいた。インドといえば大多数がヒンドゥー教徒であるという先入観を抱きがちだが、実際には人口の一割以上がイスラム教徒であり、ムンバイのような大都市では両者が混ざり合う日常が繰り広げられている。
イスラム教徒の女性の姿は、単なる服装の違い以上のものを示している。サリーの裾を翻しながら歩くヒンドゥー教徒の女性と、黒衣に身を包んだイスラム教徒の女性が同じ列車を降りる光景は、まるで多様性の教科書の挿絵のようだ。だがここでは誰も驚かず、誰も気にとめない。人口十数億を超えるインドでは、宗教の違いは日常の景色の一部に過ぎないのである。もっとも、異なる宗教の祝祭日が重なると、休暇の日数の多さに官公庁が悲鳴を上げるのも事実である。
プラットホームの雑踏を眺めていると、駅は単なる交通の結節点ではなく、インド社会の縮図そのものだと気づく。そこにはヒンドゥー教とイスラム教、さらにはキリスト教やゾロアスター教までが混じり合い、摩擦を抱えつつも共存している。駅は説法より雄弁で、教科書よりも雑多で、そして時に滑稽である。
2011年3月 町角 インド | |
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No
5251
撮影年月
2010年9月
投稿日
2011年03月03日
更新日
2025年09月09日
撮影場所
ムンバイ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM