台南の路地を歩いていると、道端に腰を屈めた男の姿が目に留まった。彼の前には、巨大なキャンバスが立てかけられている。いや、それはキャンバスではない。映画の看板だ。
通りの反対側には、古びた映画館が見える。台湾の映画文化の香りが漂う場所。その映画館の入り口に掲げるために、この男は今、新しい映画の看板を描いているのだろう。
彼は筆を持ち、黙々と作業を続ける。僕が近寄っても、一切こちらを気にする素振りはない。職人。まさにそんな言葉がふさわしい。余計なことは語らず、ただ手元の仕事に集中する男。彼の筆先から生まれる色彩が、映画の世界を形作っていく。
この映画館では、上映作品が変わるたびに手描きの看板が新しく描かれるようだ。しかし、古い看板を破棄するわけではない。よく見ると、彼はすでに描かれていた絵の上に、新たな物語を重ねていた。
かつてはパンダやトラが躍動するアニメ映画のキャラクターが描かれていたらしい。しかし、その面影は少しずつ消え、代わりに繊細な筆の動きが、大人のラブロマンス映画の登場人物を浮かび上がらせていく。
映画が変わるたびに、新たな物語が生まれる。そして、それはこの職人の手によって、看板の上にも刻まれていくのだ。
映画が変われば、街の雰囲気も変わる。台南のこの映画館に掲げられる看板は、単なる広告ではなく、一つの時代の記憶として刻まれていくように思えた。
2017年2月 人びと 台湾 | |
チェック柄のシャツ 画家 看板 台南 |
No
10048
撮影年月
2016年9月
投稿日
2017年02月22日
更新日
2025年02月25日
撮影場所
台南 / 台湾
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA