東京・大田区にある池上本門寺の伽藍は、小高い丘の上に鎮座している。表参道を進むと、行く手を遮るように急勾配の石段がそびえており、参拝者はまずその階段を登らねばならない。数えてみるとおよそ九十六段。いかにも信仰とは体力勝負だと言わんばかりである。これを登り切るころには、煩悩のいくつかは汗とともに流れ落ちているかもしれない。
この急な階段は、地元の人々にとっては信仰よりもむしろ「筋トレ」の場のようだ。朝の時間帯には、トレーニングウェア姿の人たちが黙々と昇降を繰り返している。息を切らせながらも無言で行き来する姿は、まるで修行僧のようだ。石段に触れるたび、歴史と筋肉が共鳴している気がする。階段が江戸時代から人びとの往来を見守ってきたことを思えば、彼らもまた、現代の行人(ぎょうにん)と呼べるのかもしれない。
そんな苦行のような光景のなかに、ひと組の親子がいた。幼い女の子とお父さんが手を繋ぎ、ゆっくりと階段を下りていく。女の子は途中で小さく跳ねるように足を弾ませており、その動きはまるで石段を遊具か何かと勘違いしているようだった。隣の父親はやや疲れた表情で、それでも娘に合わせて歩幅を調整している。
| 2017年11月 人びと 東京 | |
| 池上 親子 階段 寺院 |
No
10333
撮影年月
2017年7月
投稿日
2017年11月01日
更新日
2025年11月06日
撮影場所
池上 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA