ハノイの旧市街を歩いていくと、やがてロンビエン駅にたどり着く。駅といっても、近代的な設備はほとんどなく、ホームは簡素そのもので、まるで時代の取り残された舞台装置のようだ。ベトナムの都市の喧騒を一歩離れただけで、ここには妙な静けさが漂っている。その先に真っ直ぐ伸びる線路は、やがてロンビエン橋へと吸い込まれるように続いている。
ロンビエン橋は、フランス植民地時代の1902年に完成した鉄橋で、鉄道と歩行者の双方が通行できる構造になっている。当時のインドシナでは最先端のインフラとされ、かつて「ドゥ・ドゥメール橋」とも呼ばれた。第二次世界大戦やベトナム戦争で何度も爆撃を受けたが、その都度修復され、いまなお現役で列車が走るというのだから驚きである。もっとも、老朽化は否めず、ハノイ市民からは「補修されるよりも、もはや持ちこたえていること自体が奇跡」といった皮肉交じりの評価すら聞こえてくる。
鉄道橋の脇にはカフェが並び、観光客向けに「ロンビエン橋を眺めながらコーヒーを」という売り文句が掲げられている。どうにも洒落た風景を売り物にしているが、列車が通るたびにカップの中のコーヒーが波立つあたり、やはりここは現役の鉄路だと実感させられる。ベトナム人にとってロンビエン橋は、ただの交通手段であると同時に、戦禍と復興の歴史を体現する象徴でもあるのだろう。とはいえ、観光客にとってはインスタ映えの背景に過ぎないのかもしれない。
2025年8月 建築 ベトナム | |
橋 ハノイ 線路 駅 |
No
12891
撮影年月
2025年3月
投稿日
2025年08月24日
撮影場所
ハノイ / ベトナム
ジャンル
建築写真
カメラ
SONY ALPHA 7R V
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF