宿を取ったのは、ハノイ旧市街のど真ん中だった。迷路のように入り組んだ通りには、観光客向けのカフェと地元の商店が肩を並べていて、どちらがこの街の本来の顔なのか分からなくなる。
僕の泊まったあたりは、生薬や乾物を扱う店が多かった。棚には瓶詰めの薬草、天井から吊るされた乾いた根や実。独特の香りが混ざり合って、空気ごと異国のようだった。
けれど、そんな異国感よりも僕の心を掴んだのは、店先の「日常」だった。写真の老人は、まさにその日常の一片だ。通り沿いに袋を積んで、椅子にもたれて座っている。こちらを見上げるでもなく、どこかを見ているでもない。ただ、手を上げて合図をしたかと思えば、また腕を下ろして沈黙する。
店の中と外との境界はあってないようなものだった。暮らしは路上にあって、会話も食事も、座ることさえもすべて外で済まされていく。それが不思議と心地よくて、肩の力がふっと抜けていく。
2025年6月 人びと ベトナム | |
ベレー帽 挨拶 ハノイ 老人 ベスト |
No
12859
撮影年月
2025年3月
投稿日
2025年06月20日
撮影場所
ハノイ / ベトナム
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R V
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF