ハノイ旧市街の道をふらふらと歩いていると、不思議なコントラストに何度も足を止めることになる。ひとつ隣の店では外国人観光客向けに整えられたカフェが西洋風のベンチを並べ、英語のメニューを掲げているのに、そのすぐ横では漢方薬や乾物を扱う地元の商店が、昔ながらの佇まいでぽつんと息づいている。
棚という棚に袋詰めの薬草や香辛料が積み重ねられ、天井からは乾物の詰まった袋が吊るされている。その雑然とした秩序の中に、どこか安心感のようなものが漂っていた。看板にはベトナム語がびっしりと書き込まれているけれど、観光客向けの英訳などはどこにも見当たらない。
店先では、中年の夫婦だろうか、ふたりの男女が椅子に腰掛けてスマホを眺めている。表情に焦りもせわしなさもなく、ただそこにいる、という静けさがあった。商売のために身構えるでもなく、かといって怠けているわけでもない。通り過ぎる人を呼び止めるでもなく、客がいなければそれはそれで、という空気。
こういう場所を「地元の人向け」とひとくくりにしてしまうのは簡単だけれど、実際には「観光地」や「地元」という境界は曖昧で、そこに流れる時間の密度がまるで違っているだけ。観光客向けの店が「見せる」ことに長けているとしたら、こうした商店は「暮らす」ことに徹しているのだ。
2025年6月 町角 ベトナム | |
ハノイ リラックス 店頭 |
No
12867
撮影年月
2025年3月
投稿日
2025年06月23日
撮影場所
ハノイ / ベトナム
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R V
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF