入った展示室は広々としていて、静寂に包まれていた。真ん中には大きなガラスケースがひとつ置かれている。中には、この博物館の目玉とされる財宝が陳列されていた。翠玉白菜という翡翠で作られた彫刻だ。僕はこれを見るために、わざわざここまで足を運んだのだ。
宝石で作られた彫刻というと、つい豪華で華美なものをイメージしてしまう。けれど、この翠玉白菜はそのイメージを軽やかに裏切る。彫刻のモチーフは白菜だ。ただの白菜ではない。翡翠の色合いが、白菜の葉の緑と絶妙に合致している。そして、葉の先にはバッタとキリギリスまで彫り込まれている。細部まで驚くほど精巧だ。そのリアルさに目を奪われながらも、ふと考えてしまう。作者は、この翡翠の原石を見た時になぜ白菜を彫ろうと思ったのだろうか、と。
そんなことを考えながらじっと見ていると、他の来館者がガラスケースの前にやって来た。彼らも同じように、その白菜を指差していた。彼らの指先が彫刻の何を指しているのか、僕には分からなかった。ただ、静かな時間の中で、同じ彫刻を前にそれぞれの思考が交錯しているように思えた。
2017年5月 静物 台湾 | |
嘉義 白菜 博物館・美術館 彫刻 |
No
10145
撮影年月
2016年9月
投稿日
2017年05月17日
更新日
2024年12月06日
撮影場所
嘉義 / 台湾
ジャンル
静物写真
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA