歩道の端にテーブルが出ていた。鮮やかな水色のTシャツを着て、青と水色のチェック柄になったロンジーを穿いた若い男がひとりでテーブルに就いていた。ここは別に食堂ではない。テーブルの上にはこれまた鮮やかな緑をした瑞々しいキンマの葉が広げられていて、男は上に缶の中身を振りかけている。男はちょうどクーンを作っているところなのだった。ここは男の小さなクーン売のお店なのだ。
それにしても、ヤンゴンのいたるところにこの若い男のようなクーン売りの姿を見つけることができる。手軽に始められるというのもあるのかもしれないけれど、何よりヤンゴンの町にはよほどクーンの需要があるのだろう。
男は小脇に小さなバッグを抱えながら手際よく作っている。でも、よく見てみると男はつまらなそうな顔をしていた。仕事が好きというよりもお金のためにやっているかのようだ。もし、もっと楽しそうに作っていたらもっと若い男のもとに客が来るような気がするのは僕だけだろうか。
ビンロウジを薄く切って乾燥させたものとキンマの葉に、水で溶いた石灰を塗り、これを口に含み噛む。この時、好みにより他の香りのある木を細かく砕いたものや、非常に希であるがタバコの葉を混ぜることもある。噛んでいる間は渋みが広がり、大量に口中に溜まる唾はビンロウジの赤い色に変わる。飲み込まず頻繁に唾を吐き出すことでそれを処理する。ビンロウジには依存性があり、何回も用いると次第に手放し難くなる。また、使用することでアルコールに酔った様な興奮を催す。石灰を含んでいるため赤くなった唾液と共に歯にこびりつき、歯が褐色に変色する。また、常習によってあごに変形をきたす。最近ではキンマ噛みを行なうことにより、口腔ガンが発生しやすくなることも報告されているが、これらの副作用は主にキンマよりもビンロウジによるものである。
No
10866
撮影年月
2018年9月
投稿日
2019年01月19日
撮影場所
ヤンゴン / ミャンマー
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA