ウブドの町を歩いていたとき、ふと目に留まったのは、おそらくバリ・ヒンドゥー教の寺院だった。背の高い木の扉が半開きになっている。その絶妙な開き方がまた悩ましい。「どうぞ」とも「立入禁止」とも言わないその曖昧さに、僕はしばらく立ち尽くしていた。そんなとき、ふと扉の両脇に目を向けると、対になった石像がこちらを睨むように鎮座していた。その姿はまるで、日本の神社の入口で聖域を守る狛犬のようだ。
この像はバリで「シンガ」と呼ばれる聖獣で、バリ・ヒンドゥー教においては災厄や悪霊の侵入を防ぐ守護神として信仰されている。古代インドの神話に由来するこのライオン型の霊獣は、門や玄関に置かれることで、その家や寺院の中を聖域として保つ役割を担うという。東アジアでは沖縄の「シーサー」や、先述の狛犬と共通する役割を担っている点も興味深い。名前こそ違えど、どれもライオンのイメージに近い威厳を持ち、文化を越えて同じように「守り神」としての地位を得てきたことに驚かされる。
邪気を払い、清らかな心をもった者だけを通す。そんな意味を知ってしまうと、このシンガの石像たちの視線が、より一層重く感じられる。僕の中のどこかが「まだ入るべきではない」と語りかけてくる気がして、結局その門をくぐることはできなかった。
2012年11月 建築 インドネシア | |
神 扉 狛犬 ライオン ウブド |
No
6966
撮影年月
2009年6月
投稿日
2012年11月07日
更新日
2025年07月18日
撮影場所
バリ島 / インドネシア
ジャンル
建築写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM