都内の南、目黒にある雅叙園に足を運んだ。ここには昭和初期の豪奢な木造建築である百段階段という代物がある。百段と名乗っておきながら、実際には九十九段しかない。縁起を担いだ奇数なのか単なる大工の数え間違いか分からないが、少し人を食ったような話だ。その階段に沿って、七つの立派な部屋が連なっている。それぞれの部屋では、趣向を凝らした異なるジャンルの催し物が展示されていた。急な階段を上るだけでも息が切れる。それなのに、通りがけにいちいち部屋を覗き込まなければならないのだから、ひどく骨の折れる見物である。
その骨の折れる見物を続けながら、ある部屋に入った。そこは「お祭り」をコンセプトにした展示空間であった。決して広くない畳敷きの部屋の中に、巨大なねぷたの山車灯籠がどしんと居座っている。本来であれば青森の広い夜道を練り歩くはずの巨大な灯籠だ。それがこんな閉ざされた室内に押し込められているのだから、なんとも窮屈そうに見える。ちなみに、青森市で運行される立体的なものを「ねぶた」、弘前市などで見られる扇型のものを「ねぷた」と呼ぶのが一般的らしい。訛りの違いなど細かい歴史はあるのだろう。しかし素人の僕が気にしたところで、どうせ暗闇で光る巨大な張り子であることに変わりはない。
その窮屈そうな巨大な張り子の中で、最も僕の目を引いたものがある。真っ赤な顔をしてこちらを睨みつけている男の灯籠だ。実際に現地のお祭りで使用されたものらしい。太い筆で描かれた隈取りと、大きく開かれた口から覗く歯が、やけに猛々しい表情を作っている。手には刀を握りしめていた。今にもこの狭い部屋にひしめく見物客たちに、真っ向から斬りかかりそうな気迫である。だが、いくら凄んでみせたところで、所詮は紙と骨組みでできた灯籠に過ぎない。これほど大きな物を、一体どうやってこの階段だらけの古い建物に搬入したのだろうか。そんなひどく現実的で身も蓋もない疑問ばかりを、僕は一人で持て余していた。
| 2016年10月 静物 東京 | |
| 顔 提灯 目黒 赤 刀 |
No
9906
撮影年月
2016年8月
投稿日
2016年10月17日
更新日
2026年04月26日
撮影場所
目黒 / 東京
ジャンル
静物写真
カメラ
SIGMA DP2 MERRILL