鎌倉でふと立ち寄った寺の境内の隅に、風雨に晒されて表面がざらついた古い石像があった。高さは人の腰ほどで、どこか人間くさい丸みを帯びている。よく見ると、その像は左手を胸のあたりに添えている。何を意味しているのかは分からないが、仏教彫刻の世界では「与願印」や「施無畏印」など、手の形に応じてそれぞれ意味があるという。もっとも、風化が進んでいて指先のかたちは定かではない。あるいは職人の気まぐれで、何の意図もなかったのかもしれない。
正面から覗き込んでも、石像は頑なに左手の方向へ顔を向けたままだった。まるで世間の喧騒を避けるように、こちらを無視しているようにも見える。鎌倉は観光客で賑わう町だが、こうして静かに拗ねている仏もいるらしい。古い石像には、時に人間以上の感情を感じさせるものがある。表面の黒ずみや苔の斑点は、何百年という時間の堆積であり、同時に無言の履歴書でもある。
2005年11月 神奈川 静物 | |
鎌倉 像 寺院 |
No
240
撮影年月
2005年10月
投稿日
2005年11月17日
更新日
2025年10月07日
撮影場所
鎌倉 / 神奈川
ジャンル
静物写真
カメラ
CANON EOS 1V