ミャンマーの首都ヤンゴンの歩道では、いつも何かしらの勝負ごとが行われている。将棋のようでもあり、囲碁のようでもあるが、実際のところルールはよく分からない。地べたにしゃがみ込み、瓶のキャップやコインのようなものを駒代わりにして、男たちは真剣な顔つきで盤面を見つめている。写真の男もそのひとりだった。日差しを避けるために上半身裸になっており、その背中の入れ墨が目に飛び込んできた。
彫られていたのは、おおまかに言えば三つのモチーフ――大木と豪邸、そして龍。まるで寓話のような取り合わせだ。龍は東南アジアでも力と勇気の象徴とされ、富貴や守護の意味を持つという。ミャンマーでは古来、入れ墨は単なる装飾ではなく、魔除けや呪術の一種として信じられてきた。中には、呪文のようなパーリ語を彫り込む者もいるらしい。豪邸はわかりやすく富の象徴だとしても、大木が何を意味するのかは分からなかった。生命力か、あるいは家族か。もしかすると、彼の中では「根を張る」ことこそが最も切実な願いなのかもしれない。
それにしても、この男の入れ墨はどこか未完成のようでもあった。線は細く、陰影もまだ浅い。もしかしたら途中で彫るのをやめたのか、それとも彫師が逃げたのか。勝負の合間に少し身を乗り出す男の背中を見ていると、ヤンゴンという都市そのものが、その未完成な彫り物に重なって見えた。発展途上のまま、今も形を探しているのだ。
| 2015年2月 ミャンマー 人びと | |
| 背中 男性 刺青 ヤンゴン |
No
9045
撮影年月
2010年2月
投稿日
2015年02月06日
更新日
2025年10月24日
撮影場所
ヤンゴン / ミャンマー
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM