フィリピン北部の山岳地帯ティングラエンの村を歩いていると、斜面を登っていくひとりの女性の背中に目を奪われた。色あせたストライプの布で、赤ちゃんがしっかりと体に括りつけられている。布は簡素だが、これがいわば伝統的な抱っこ紐なのだろう。現代的なベビーキャリアと比べると、ずいぶんと原始的に見えるが、たぶんこちらの方がずっと丈夫で、なにより母親の体温がじかに伝わる点で勝っている。
お母さんは、僕のカメラにはまったく関心を示さなかった。山道を黙々と歩きながら、ただ生活の延長としてその日を過ごしているように見えた。だが、背中の赤ちゃんだけは違った。布の隙間から顔を出し、こちらをじっと見ている。まるで「また珍しい奴が来たな」とでも言いたげな表情だ。驚きとも興味ともつかないその目には、山の暮らしに根ざした静かな強さがあった。
| 2009年1月 人びと フィリピン | |
| 赤ちゃん 背中 お母さん 親子 ティングラエン |
No
2397
撮影年月
2008年9月
投稿日
2009年01月16日
更新日
2025年10月23日
撮影場所
ティングラエン / フィリピン
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM