府中の駅を降りると、空気の中にかすかな木の香りが混じっていた。どうやら祭りの準備が始まっているらしい。通りを歩いて行くと、やがて参道になり、やがて大國魂神社への入口へと繋がっている。門には無数の提灯が吊り下げられていて、白地に黒い文字がずらりと並んでいる。提灯の数があまりに多く、風が吹くたびにざわざわと微かな音を立てる。まるで神々が密談でもしているかのようだった。
この大國魂神社は、伝承によれば第十二代景行天皇の御代に創建されたという。もしそれが史実なら、西暦二世紀頃の話になる。二千年近い時間がここに流れていると思うと、ありがたみよりも、少しばかり滑稽な気がしてしまう。何しろ、その景行天皇自体が実在したかどうかすら怪しいのだから。だが、人は信じたいものを信じる。信仰とは、疑いを抱きながらも手を合わせる矛盾の所作である。
門の向こうには拝殿が静かに構えている。境内を歩く老木の影が、石畳の上でゆらゆらと揺れていた。そのとき、ひとりの年配の男が現れた。彼は錆びた自転車を押しながら、提灯の下をのんびりと通り抜けていく。帽子を深くかぶり、手にはビニール袋。祭りの喧騒がまだ訪れぬうちの、穏やかな府中の午後だ。
| 2007年2月 町角 東京 | |
| 自転車 府中 門 提灯 神社 |
No
720
撮影年月
2006年12月
投稿日
2007年02月07日
更新日
2025年11月17日
撮影場所
府中 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V