初冬の冷え込みが厳しい日に、原宿の広大な社叢を抜けて明治神宮の広々とした境内へと足を向けた。大正9年に創建されたこの神社は、古代の式内神社のような数千年の長い歴史こそない。しかし、すでに誕生から100年以上が経過している。100年という歳月は、人間の世界をガラリと変えるには十分すぎる時間だ。それだけの時が流れれば、当然ながらここを訪れる参拝客の身なりや出で立ちも、創建当初のそれとは似ても似つかないものへと変化しているに違いない。
その創建当初とは似ても似つかない現代の参拝客の姿を象徴するかのように、僕の目の前をひとりの女の子がトボトボと横切っていった。頭には大きなポンポンのついた厚手のニット帽をかぶっている。そして、片手には携帯電話を握りしめている。彼女は神妙に拝殿へ向かう風でもなく、画面を熱心にいじりながら、うつむき加減に歩いていた。100年前の日本でも、防寒具としてのニット帽は「正ちゃん帽」などと呼ばれて大流行していたから、帽子自体は辛うじて存在していただろう。しかし、板切れのように薄い金属の塊から電波を飛ばして世界中と交信するこの文明の利器は、逆立ちしたって存在し得なかった。御祭神である明治天皇は生前、新物好きとして知られ、西洋の技術も進んで取り入れられたそうだが、まさか自分の境内で人々が四六時中この小さな四角い画面を眺めて右往左往することになるとは予想もされなかったろう。神様といえども、現代の目まぐるしい技術をいちいちアップデートせねばならぬのだから、その苦労は並大抵のものではない。
| 2009年2月 人びと 東京 | |
| 携帯電話 ニット帽 明治神宮 境内 |
No
2540
撮影年月
2008年11月
投稿日
2009年02月26日
更新日
2026年06月18日
撮影場所
明治神宮 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM