若者の街として広く知られる原宿の駅を降り、すぐ近くにある明治神宮の入り口へと足を向けた。初詣の参拝客数が日本一であることで有名なこの神社だが、この日はいつもと違って、参道の入り口付近に夥しい数の白い提灯が吊り下げられていた。どうやら秋の例大祭か何かの祭りの時期が近づいてきているのだろう。等間隔に強固な木枠が組まれ、そこに隙間なく整然と並んだ提灯の群れは、まるで巨大な白い壁のようになって参拝客の行く手を阻むかのようだ。これだけ大量の球体が一度に視界へ飛び込んでくると、壮観というよりは、何だか巨大な芋虫の節を横から眺めているような奇妙な錯覚にとらわれてしまう。
その芋虫の節のようにも見える不気味なほど整然とした提灯だが、近寄ってよく眺めてみると、どれも表面に墨黒々と文字が書かれている。これらは「提灯文字」などと呼ばれる独特の書体だ。文字の隙間をなるべく少なくして太く書くことで、「運がこぼれないように」「商売繁盛するように」という縁起を担ぐ意味合いがあるらしい。そんな験担ぎの文字で埋め尽くされた提灯の一球一球には、当然ながら全て寄進者の名前が記されている。これほど大掛かりな祭礼を維持するためには、神様の霊力だけでなく、世俗の人間たちの経済的な賛同が不可欠なのだという現実を、まざまざと見せつけられる思いがする。
その世俗の人間たちの経済的な賛同の証である名前を一つずつ検分していくと、個人の姓名だけでなく、誰もが知る大企業の社名も数多く混ざっていた。不景気だ何だと騒がれる世の中であっても、神様への投資を惜しまない手合いはこれほど大量に存在するらしい。一列に狂いなく並ぶ文字の羅列を見つめていると、僕はその熱意にうかつに胸を打たれて神妙な気持ちになる代わりに、妙な心配が頭をよぎり始めた。このまま年々寄進者の数が増え続けていったら、いずれ広大な境内が提灯だけで完全に埋め尽くされ、参拝客が一歩も進めなくなってしまうのではないか。
| 2009年2月 静物 東京 | |
| 漢字 原宿 提灯 明治神宮 神社 |
No
2539
撮影年月
2008年11月
投稿日
2009年02月25日
更新日
2026年06月18日
撮影場所
原宿 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM