西新宿の辺りはかつて角筈という地名だった。江戸時代以前からある由緒ある地名だ。にもかかわらず、1970年代に地図上からは消えてしまった。1970年代といえば京王プラザホテルを皮切りに超高層ビルが次々と建てられ、この辺りが新宿副都心へと変貌を始めたころ。おそらくは再開発され新しい息吹をもたらす土地の名前に手垢のこびりついた角筈という地名は相応しくないと考えたのだろう。今では西新宿という何の変哲のない地名になっている。
辞書を引くと角筈という言葉にはふたつの意味が載っている。ひとつは弓または矢の筈を牛や鹿の角で作ったもの。もうひとつは斎宮の忌詞で優婆塞を意味するものだという。優婆塞とは仏教の男性の在家信者のこと。神に仕える斎宮では穢はもちろんのこと、仏教も禁忌とするため、優婆塞という言葉も忌詞として禁じられ、代わりに角筈と呼称したのだという。
その角筈がこの辺りの地名になったのには諸説あるものの、この地域の開拓にあたった渡辺興兵衛という人物が紀州よりこの地に流れ着き、熊野権現を祠ったためという説が話として面白い。権現を祀ったものの、渡辺興兵衛自身は真言宗の信者で、正式な僧にはならずに自宅で修行する優婆塞だったという。そのため斎宮の忌詞である優婆塞を避けて、この地を角筈と呼ぶようになったというものだ。
牛や鹿の角で作った弓矢であっても、在家の仏教徒であっても、そのイメージは高層ビルが立ち並び大勢のサラリーマンが働く場所には程遠い。そういう意味では高いヒールを履いた女性が颯爽と歩いているのは角筈という地名より西新宿という地名の方が似合っているような気がする。町名を変更したのは妥当だったのかもしれない。
2022年1月 町角 東京 | |
ハイヒール 西新宿 影 シルエット |
No
12151
撮影年月
2021年11月
投稿日
2022年01月20日
更新日
2023年08月16日
撮影場所
西新宿 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
EF135MM F2L USM