フィリピン北部の古都ビガンは、スペイン植民地時代の面影を色濃く残した街だ。石畳の道にスペイン風の家々が並び、その一角は世界遺産に指定されている。とはいえ、その範囲は思いのほか小さく、観光客の数もまばらである。土産物屋よりも民家のほうが多く、洗濯物が軒先に干されている光景のほうがよほど自然だ。世界遺産とは、しばしば人々の暮らしを保存する名目でありながら、その実、生活感を排除してしまうものだが、ここビガンにはその反対がある。日常そのものが、保存されているのだ。
写真の女の子も、そんな「日常遺産」の一部だった。木の扉の前で、石けんを手に持ち、髪を濡らしてシャンプーをしている。どこから水が来ているのかは分からない。ホースか、あるいは近くの井戸だろうか。気温は高く、湿度もそれなりにある。屋外で洗うのも、理にかなっているのかもしれない。だがその合理性を彼女が意識しているとも思えない。単に、気持ちがいいからそうしているだけなのだろう。
カメラを向けると、女の子はこちらを見た。驚き半分、興味半分といった表情だ。無垢という言葉を使うのは簡単だが、彼女の目にはそんな単純さでは括れない何かがあった。観光客がやってくる世界遺産の街角で、彼女はいつも通りの朝を過ごしている。洗い立ての髪から滴る水が、陽射しを受けてきらりと光った。
| 2008年12月 人びと フィリピン | |
| 女の子 シャンプー 上半身裸 ビガン |
No
2295
撮影年月
2008年9月
投稿日
2008年12月10日
更新日
2025年11月11日
撮影場所
ビガン / フィリピン
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM