韓国の首都であるソウルの街角を歩いていた。交通量の多い大通りの横断歩道で、ポニーテールをした若い女性が退屈そうに信号待ちをしている。彼女は待っている間、耳に携帯電話を当てて、誰かとずっと話し込んでいた。わずかな待ち時間さえも惜しんで連絡を取らねばならないほど、現代人はせわしない生き物らしい。もっとも、外でわざわざ電話をしている人間を見ると、無条件に忙しい人に違いないと感じてしまうのは、単に僕が古いタイプの人間だからかもしれない。
彼女の耳元にある小さな機械をぼんやりと眺めていた。よく知られているように、韓国は世界有数の通信機器の生産国である。巨大財閥であるサムスンもこの国の企業だ。元々は1930年代に乾物などの貿易商として始まった会社が、今や世界中を席巻しているのだから世の中の動きは分からない。目の前の彼女が、その自国の立派な製品を使っているのかどうかは、僕の立っている位置からは確認できなかった。
その僕の立っている位置からは確認できなかった携帯電話だが、ちなみにこの写真を撮ったのは2008年のことである。世界中で爆発的に売れることになるスマートフォンの「Galaxy」シリーズが世に出る、少し前の時代だ。彼女が耳に当てているのも、よく見ればどこか懐かしい二つ折りの端末のようである。僕は技術の進歩に感心して胸を熱くするような気の利いた人間ではない。ただ、信号が変わるのを待つだけのありふれた時間が、見知らぬ誰かの長電話によって静かに消費されていく様子を眺めていたのだった。
| 2013年11月 人びと 韓国 | |
| 携帯電話 横断歩道 ポニーテール ソウル 若い女性 |
No
8117
撮影年月
2008年7月
投稿日
2013年11月30日
更新日
2026年05月22日
撮影場所
ソウル / 韓国
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM