インドの東部、バングラデシュの国境に近い西ベンガル州の街を歩いていた。マルダという名前の街である。かつてはベンガル地方の首都として栄えた歴史を持つ古い街らしい。しかし、今の道端にはそんな過去の栄華など微塵も感じられない。ただ埃っぽく、得体の知れない熱気が漂っているだけだ。そんなどうしようもなくうらぶれた通りで、仲間たちと一緒に無目的にたむろしている一人の男がいた。僕がふらふらと近づいていくと、彼はすぐさまこちらに気がついた。よそ者が珍しいのか、その顔には好奇心と同時に、どう接していいか分からないといった恥じらいの色が浮かんでいる。興味津々でありながら、カメラを向けられて少し照れているようだ。ふたつの感情が混ざり合った、なんとも言えないはにかんだ表情である。彼の中でどちらの感情が勝っているのかは分からない。ただ、いずれにしても、その顔つきはひどく陽気で楽しそうだった。
そのひどく陽気で楽しそうな男の様子は、どうやら目に見えない病気のように周囲へ伝染する力を持っているらしい。インド人は基本的にパーソナルスペースという概念が希薄だ。見知らぬ人間であっても平気でジロジロと観察してくる傾向がある。彼らは他人の動向が気になって仕方がないのだ。男の背後にぼんやりと写っている仲間たちも、手前の男の楽しげな空気にゆっくりと罹患していった。彼らもまた、突然現れた黒いカメラを持った異邦人の存在が気になり始め、奥の方からこちらの様子を覗き込んでいる。見世物にされているのは間違いなく僕の方である。だが、彼らの好奇心に満ちた視線に悪意はない。ただ純粋な暇つぶしを楽しんでいるだけなのだ。
| 2013年11月 インド 人びと | |
| 恥ずかしがり屋 好奇心 顔 マルダ 口髭 |
No
8116
撮影年月
2011年6月
投稿日
2013年11月29日
更新日
2026年05月22日
撮影場所
マルダ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM