行天宮の境内に足を踏み入れると、台北の喧騒の中とは思えぬほどの人々が熱心に祈りを捧げていた。台湾有数の廟である行天宮は、観光客だけでなく地元の人々にとっても信仰の拠点であり、平日であっても参拝者の姿が絶えない。一般的には正殿の前で線香を手に祈るのが定番なのだが、写真に映るふたりの女性はやや変わった場所に立っていた。境内の外側にある扉の前に陣取り、扉に向かって静かに手を合わせているのである。
この振る舞いには理由があるのか、それとも単なる気まぐれなのか。入場料を取られる場所でもないのに、なぜ中に入らず外で祈るのかは解せない。だが台湾の寺廟文化をひもとけば、願い事の種類によって拝む場所を選ぶという習慣があることを思い出す。商売繁盛なら正殿、健康祈願なら別殿、といった具合である。彼女たちがどの聖典に基づいて祈りを分けているのかは知る由もないが、少なくとも僕が勝手に推測する余地だけは残されている。
それにしても「信・義・忠・廉」などと大書された壁面を背に、真剣な面持ちで扉に向かうふたりの姿は、信仰というよりも官僚試験の面接でも待っているように見えなくもない。台北の街中で最も人間臭い光景が、この荘厳な行天宮にあるのかもしれない。参拝者たちは祈りを通じて神と交わっているはずなのに、見ているこちらはつい世俗的な連想ばかりしてしまうのだから、信仰心というものは案外他人に伝わりにくいものなのだろう。
2007年4月 人びと 台湾 | |
祈る 台北 寺院 女性 |
No
822
撮影年月
2007年1月
投稿日
2007年04月03日
更新日
2025年09月03日
撮影場所
台北 / 台湾
ジャンル
スナップ写真
カメラ
CANON EOS 1V