コムラプール駅前では大勢のサイクルリクシャーが客待ちしていた

サイクルリクシャーの大群
サイクルリクシャーの大群

コムラプール駅は、バングラデシュの首都ダッカにある中央駅に相当する大きな駅だ。もっとも「大きい」といっても、東京駅や新宿駅のような桁外れの規模を想像すると肩透かしを食らう。せいぜい地方都市の駅舎を一回り大きくした程度で、それでもバングラデシュ鉄道の中心地であることに違いはない。駅前には必ずといっていいほど人の群れと雑然とした喧騒が広がっているが、その中心を占めているのがサイクルリクシャーだ。

駅の前の広場には、整然と並ぶどころか互いにぶつかり合いそうなほど密集したリクシャーがずらりと並んでいる。数十台どころか百台は下らない数で、まるで一糸乱れぬ軍隊の進軍を待つ兵士のように見える。もっとも、実際の兵士と違うのは彼らが漕ぎ出す先は戦場ではなく、近隣の住宅地や市場、あるいは外国人観光客が泊まる安宿街であることくらいだ。

サイクルリクシャーは、インド亜大陸に広く分布する三輪車タクシーの一種だが、ダッカのそれはとりわけ数が多いことで知られている。エンジンを持たず人力で走るため、環境にやさしい移動手段などと観光ガイドには書かれているが、実際に漕ぐ側にとっては「環境」よりも「体力」の問題だろう。坂道の少ないダッカの地形は彼らにとっては救いかもしれないが、それでも酷暑の中で一日中ペダルを踏む仕事は、外野がのんきに称賛できるようなものではない。

そんな中で、カメラを向けたリクシャーワラー(運転手)の一人は、不思議なほど落ち着いた目をしてこちらを見返してきた。表情には焦りも苛立ちもなく、むしろ「また観光客が物好きにシャッターを切っている」とでも言いたげな余裕がある。背景に並ぶ同業者たちと一緒に、彼らの姿はコムラプール駅の日常の風景を形作っている。ダッカの雑踏の中で、リクシャーは単なる交通手段ではなく、都市の景観そのものを象徴する存在になっているのだ。

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ENGLISH
2010年3月 バングラデシュ 人びと
集団 客待ち サイクルリクシャー ダッカ リクシャワラー

PHOTO DATA

No

3809

撮影年月

2009年9月

投稿日

2010年03月12日

更新日

2025年09月01日

撮影場所

ダッカ / バングラデシュ

ジャンル

ストリート・フォトグラフィー

カメラ

CANON EOS 1V

レンズ

EF85MM F1.2L II USM

日本国外で撮影した写真

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