ダッカの町を歩いていると、思いがけない光景に出くわすことがある。たとえばこの写真に写る路地の入口である。入り口にはサリーをまとった女性が立っていて、まるで番人のように通りを見張っているようにも見えた。その視線の先からは、薄暗い路地を抜けて若い女性が現れた。ふたりの間に言葉はなかったが、交わされる視線には、この大都会バングラデシュの首都ならではの緊張感が漂っているようだった。
バングラデシュではサリーは最も一般的な女性の民族衣装で、インドやネパールでも広く着られているが、布の巻き方や柄の好みには地域性があるという。ダッカの市場や路地裏を歩いていると、実際にその違いを目にできる。入口の柱にはベンガル語の看板が掲げられていたが、旅行者には解読困難である。アルファベットと違って曲線の多い文字が並ぶのを見るだけでも、なんとなく自分が異国にいることを再確認させられる。
路地の入口は、町の縮図のような場所でもある。狭い空間を通り抜ければ別世界が広がっていることも多い。そこに待ち受けるのが市場の喧噪か、あるいは生活の気配かは、そのときになってみないと分からない。サリーをまとった女性の鋭い眼差しに出会った僕は、結局その路地に入る勇気を持てずに通り過ぎてしまった。だが、旅先とはそういう「入るか入らぬか」の小さな逡巡の積み重ねでもあるのだろう。
2010年3月 バングラデシュ 町角 | |
路地 ダッカ サリー 女性 |
No
3808
撮影年月
2009年9月
投稿日
2010年03月12日
更新日
2025年09月01日
撮影場所
ダッカ / バングラデシュ
ジャンル
スナップ写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM