バングラデシュの首都ダッカを歩いていると、青年が大きなトレイと盥を頭上に載せて歩いている姿に出会った。遠目には、まるで巨大なスープ皿を運んでいるように見える。どちらも金属製で、空であっても相当の重量がありそうだが、彼はそれを軽々と頭に据え、平然とした表情で進んでいた。こうした頭上運搬はこの国の日常の光景で、力仕事の象徴でもあり、同時に体幹の強さを誇示する無言の芸でもある。
もっとも、僕が真似をすれば数秒でバランスを崩すに違いない。頭に載せた荷物を落とさず歩くには、何世代にもわたって培われた身体感覚が必要なのだろう。バングラデシュやインド亜大陸では、車やリヤカーに代わる合理的な運搬手段として今も広く用いられている。ヨーロッパの中世絵画にもしばしば頭に壺を載せた人物が描かれているが、文明の進化とともに忘れられた技術がここダッカでは生き残っているわけだ。
写真の青年は厚い唇をわずかにゆがめて、挑むような微笑を浮かべていた。頭上には大きなトレイ、片手には携帯電話。荷を支えるよりも電話を握りしめるほうが重要だとでも言いたげだ。文明と伝統が同居しているその姿は、バングラデシュの都市生活の縮図にも見える。彼にとっては朝飯前の所作も、僕には大道芸のように思えてならなかった。
2014年3月 バングラデシュ 人びと | |
盥 ダッカ 運送人 お盆 青年 |
No
8419
撮影年月
2009年9月
投稿日
2014年03月21日
更新日
2025年08月26日
撮影場所
ダッカ / バングラデシュ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM