ボントックの道路脇に、年季の入った一台のバスが停まっていた。どうやらここが停留所らしい。車体の側面には「Bontoc Bus Line」と書かれており、さらに小さな文字を読むと、どうやらタブークという町からやって来てベサオへ向かう路線のようだった。フィリピンの山岳地帯では、自家用車を持たない人々の生活を支えるのはこうしたバスである。時刻表はあってないようなものだが、人と荷物を積み込んで、山道を揺られながら進むのだ。
座席はほとんど埋まっており、窓という窓がすべて開け放たれていた。エアコンなどという贅沢はここにはなく、山風が唯一の空調装置だ。窓の隙間からは、乗客の顔がこちらを覗かせている。大人も子供も、誰もが一様に太陽に焼かれた肌をしていて、旅路の長さを物語っていた。日本ではすでに見かけなくなったクラシックな車体に、フィリピンの交通事情が凝縮されているようにも見えた。
そんなバスの中に、幼い男の子の姿もあった。親の膝の上にちょこんと腰掛け、開いた窓から外を眺めている。僕がカメラを構えると、その視線がぴたりとこちらに合った。好奇心なのか、それとも退屈しのぎなのか、じっとした瞳で僕を追いかけていた。おそらく彼にとって、ボントックからベサオまでの道のりは退屈なものではなく、むしろちょっとした冒険なのだろう。
2014年3月 フィリピン 乗り物 | |
ボントック バス 車窓 |
No
8418
撮影年月
2008年9月
投稿日
2014年03月21日
更新日
2025年08月26日
撮影場所
ボントック / フィリピン
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM