東京・上野の辨天堂を訪れるたびに思うことがある。それは、同じ目的地に向かうのでも、一本道の陸地を歩いていくのと、船に乗って水上を進むのとでは、感じる雰囲気がまったく異なるということだ。水の上を渡るという行為には、どこかしら特別な感覚が宿る。
それはムンバイのハッジ・アリー廟にも言えることだった。この廟は、かつて海に浮かぶ小島の上に建てられ、訪れる人々は潮の満ち引きを見計らいながら足を運ばねばならなかった。そこへ辿り着くこと自体がひとつの儀式であり、まるで異世界へと誘われるような感覚があったに違いない。
しかし、今では上野の辨天堂も、ムンバイのハッジ・アリー廟も陸地と繋がってしまった。かつては水の上を渡って訪れる神聖な場所だったのに、いまや手軽に歩いて行ける観光名所となった。便利にはなったものの、その分、異世界へ向かうという感覚は失われてしまったのではないか。
ハッジ・アリー廟へと続く一本道には、大勢の人々が行き交っていた。無言で黙々と歩く巡礼者、楽しそうにおしゃべりしながら進む家族連れ。 すでにこの道は、神聖な巡礼路というよりも、賑わうマーケットの通りのようにさえ見える。
かつて、ここに向かうことは一種の「試練」だったのだろう。今では、それが「日常」に変わった。便利さの代償として、僕たちは何かを失っているのかもしれない。
2025年3月 インド 人びと | |
眼鏡 ムンバイ 口髭 参拝客 |
No
12834
撮影年月
2024年5月
投稿日
2025年03月12日
更新日
2025年03月14日
撮影場所
ムンバイ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R V
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF